三日月の雫

発注書のような複写式の用紙を渡される。

僕は促されるがままに、自分が決めた刻印をボールペンで丁寧に書いた。



「指輪は2~3週間ほどで仕上がりますので、ご来店の際は控えをお持ちください」



クレジットカードで支払いを終え、僕は店を後にした。

結婚を控えた普通のカップルなら、きっと、何度も店を訪れて、2人でいろいろ話し合って決めるのだろう。


そんな大切なことなのに、あまりにも簡単に終わってしまった。

深い溜息が自然とこぼれる。




「……遼太郎」



店のすぐ前で、遼太郎が膨れっ面で立っていた。

僕が声をかけても何も言わない。



「……帰るぞ」



僕は遼太郎の肩をポンポンと叩き、駐車場へと向かった。

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