三日月の雫
そして、指に通すことのない2つの指輪。


人が見れば、きっと笑うだろう。

恋人同士として過ごしたことなんて一度もなかったのに、それさえも通り越して結婚指輪を買うなんて。



絶望的な中で。

柚羽との繋がりがなくなってしまった僕にとって。

1人で勝手に買ったこの指輪の意味――。



二度と会うことのない柚羽をそばに感じたかった。

……もしかしたらという、砂粒よりも小さな願いが、いつか叶うかもしれないという淡い期待を抱いた。



僕はベッドのサイドテーブルの引き出しを開けた。

ブラシやワックスなど身だしなみを整える物と一緒に、ゴツゴツした指輪やネックレスが入っていた。

その中から細いチェーンの、何もついていないネックレスを取り出す。


そのネックレスに、僕は【YUWA】と刻まれた方の大きいサイズの指輪を通した。

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