三日月の雫
そして、湿気を帯びた洗面所へと行き、身支度を始めた。
顔を洗っていると、玄関の方からガチャガチャとカギを開ける音が聞こえる。
――来たな。
ドアが開き、廊下を歩く音が迫ってくる。
僕は濡れた顔をタオルで拭くと、洗面所から顔だけ出した。
「おはよう」
ズブ濡れになったかんなが僕の声にビクリと身体を震わせる。
「……おはよう」
憂鬱そうな顔で、かんなが挨拶を返す。
いつもなら、「おはよう」の言葉もなく、「また雨よ?」などとグチをこぼしながらやって来るのに。
今日は珍しく、静かに「おはよう」と返してくれた。