三日月の雫

あてもなく走り続ける僕の車。

かんなはドライブに行こうと言ったくせに、行きたい場所を提案する気配もなかった。

ただ、じっとラジオに聞き入っている。


僕の車は国道を走りぬけ、自然と峠の方へと向かっていた。

暴走族にいた頃。

暴走ではなく、ただのツーリングとして、バイクを持っているヤツらと走った峠道。


峠道のガードレールの向こうにはたくさんの木々が生い茂っていて、秋になると紅葉を楽しむ人々で溢れる。

けれど、その下は谷底のようになっていて、急なカーブに差し掛かると誰もが慎重に運転した。




「……永ちゃん」



黙ってラジオを聴いていたかんなが口を開く。



「うん?」

「……まだ、あの女のこと、好きなの?」



これまで話題にもならなかった、突然の、柚羽の話。

< 211 / 238 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop