三日月の雫
あてもなく走り続ける僕の車。
かんなはドライブに行こうと言ったくせに、行きたい場所を提案する気配もなかった。
ただ、じっとラジオに聞き入っている。
僕の車は国道を走りぬけ、自然と峠の方へと向かっていた。
暴走族にいた頃。
暴走ではなく、ただのツーリングとして、バイクを持っているヤツらと走った峠道。
峠道のガードレールの向こうにはたくさんの木々が生い茂っていて、秋になると紅葉を楽しむ人々で溢れる。
けれど、その下は谷底のようになっていて、急なカーブに差し掛かると誰もが慎重に運転した。
「……永ちゃん」
黙ってラジオを聴いていたかんなが口を開く。
「うん?」
「……まだ、あの女のこと、好きなの?」
これまで話題にもならなかった、突然の、柚羽の話。