三日月の雫
こんな体験、最初で最後なんだろう。
僕は自分が死んだ後の光景をそばでじっと見ていた。
単身赴任の親父と、それに付いて行ったお袋が帰って来る。
嫁に行った姉貴も、旦那を連れて病院に駆けつけた。
久しぶりに会うっていうのに、僕はこんな姿だ。
遼太郎やユウヤたちもやってきて、病室はあっという間に人だかりができた。
ただ、啓介さんだけがいなかった。
同じ病院に搬送されたかんなは、奇跡的に一命を取り戻したものの、意識がなく集中治療室に入った。
僕のように命を落とさなくて良かったと、心の底から思った。
通夜があって、告別式があって。
あっという間に、僕の身体は愛車と同じように原型をなくしていった。
戻る場所が完全になくなると、僕の気持ちも吹っ切れる。
――柚羽に会いに行こう。