三日月の雫
うつむいてバックルームに向かう僕に、
「い、いらっしゃいませー」
と、かなりタイミングのズレた挨拶が聞こえてきた。
僕はすぐに、その声がかんなにそっくりな柳さんの友達だと分かった。
……タイミング、ズレすぎだって。
僕は笑いをこらえながら、振り向きもせずにバックルームに入った。
制服に着替えて店に出ると、店長が僕を呼んだ。
「お疲れ様。こちら、沢井柚羽さん。今日が勤務初日。で、こっちは結崎永輝くん。分からないことがあったら何でも聞いてね」
沢井柚羽――。
かんなに似ているからなのか、彼女を見て、僕は不思議な気持ちになった。
どんな気持ちなのかと聞かれても、それをうまく言葉にすることはできない。