三日月の雫
・とまどい・
「お疲れさまでした」
一言も会話をすることがなく、ただ無言で僕が彼女に微笑みかけた僅かな時間。
ほんの数時間が、僕にとっては秒単位で過ぎていった。
「あたし、立ち読みして待っとくね」
沢井さんと食事に行くと言って、柳さんが彼女を迎えに来ていた。
雑誌の発売日。
柳さんは雑誌コーナーの前で、新しく発売された雑誌を次から次へと手に取っている。
「……店長、オレ、休憩行ってきます」
「えっ?今日はえらい早いなぁ。後が長いよ?」
「大丈夫です」
いつもより随分と早い休憩時間を自ら取る。
僕は沢井さんを追うようにして、バックルームに入った。
そんな自分の行動が、理解できなかった。