三日月の雫
彼女からしてみれば、僕は馴れ馴れしく思えたのだろうか。
会話が一通り終わると、沢井さんは「じゃ、お疲れさまでした」と言って、素っ気無く踵を返した。
……こういう時はタイミングが良いんだな。
バックルームのドアを前に、僕は彼女を呼び止めた。
「沢井さん!」
彼女はすぐには振り返らず、しばらくしてゆっくりと僕の方を振り向いた。
「次のシフト、見て帰らないと」
「あ。そうでした」
退勤したら、次の勤務日と時間をチェック。
それがこの店のルールだった。
新人には忘れがちなルール。
何度も見忘れて帰っていく新人を見てきたけれど、呼び止めたのは今回が初めてだった。