三日月の雫
「いや、あと四日あるけど、もう見ないから」
「借りていいですか?オレ、ちゃんと返しときますから」
「うん、いいよ」
村岡は大喜びでビデオを受け取った。
かんながどうしても見たいと言って借りたビデオだった。
何かの流れで好きな映画の話になって、僕が「逃亡者」が好きだと言った。
見たことがないと言うかんなが「今から借りに行こう」と強引に僕を連れ出したのを思い出す。
「あ、そうそう。今度、飲み会するんで、結崎さん来てくださいね」
お疲れ、と言ってドアに向かう僕の背中に向かって村岡がそう言った。
飲み会と言っても、車で行く僕は酒が飲めない。
だけど、今はすべてを忘れて、みんなと騒ぎたかった。
……すべてを忘れるというよりも、かんなから解放されたいと言った方が正しいのかもしれない。