三日月の雫
「あ、そうそう。今日、ココ来る前に店に寄って、拾ったんっすよ」
沢井さんと顔を合わせずにバイトを辞めることを悔やむ隣の酔っ払い。
内線電話で注文しようと席を立つ僕のズボンの後ろポケットを掴んで話しかける。
僕は「ちょっと待ってて」と言って席を立つと、内線でウーロン茶を注文した。
席に戻ると、そいつの話は大学の話へと変わっていた。
僕が席を立つ前に、何かを拾ったと言っていたけれど……。
たいした話でもないんだろうな……。
僕は話を戻さずにそのまま、そいつの話を聞き続けていた。
「おまたせー!」
運ばれてきたウーロン茶を半分くらいまで飲んだ頃。
柳さんが沢井さんを連れてやって来た。
柳さんの後ろに隠れるようにして立っていた沢井さんと、一瞬目が合う。
沢井さんは僕を見るなり、全身が固まっているような様子だった。
――…嫌われたかな。
馴れ馴れしく一方的に話したのがいけなかったんだろうか。