三日月の雫
……頼むから。
今このときだけは、かんなに関することだけは僕の耳に入れないでほしい。
今こうやって、彼女と過ごす僅かな時間だけは……。
彼女…柚羽の酒の勢いもあってか、僕たちはいろんなことを話した。
とは言っても、彼女が一方的に話をして、僕がそれに答えるというものだった。
それでも、楽しかった。
僕に関することをいろいろ聞いてきた。
今のこと、過去のこと。
だけど、族にいた頃の話には一切、触れてこなかった。
ただ、知らないだけなんだろうと思った。
でも、敢えてその話を避けていることに気付いた。
族の話に入りそうになると、彼女は「あーヤバイかも。完全に酔ってる」などと言って、酔っ払いにありがちな話題転換を繰り返した。