三日月の雫
そんな彼女の気持ちを少しでも解そうと、カラオケでのことを持ち出す。
「えっ?」
心ここにあらずといった様子で、彼女が僕を一瞬見る。
「あぁ、ごめん。何か、落ち込んでるから、少しでも楽しい話題をと思って」
「すみません、あたし、酔っ払って。嫌な思いさせてしまって」
「いや、楽しかったよ」
気遣いなんかじゃなく、本心だった。
嫌な思いなんて、これっぽっちもしなかった。
あっという間に過ぎた時間だけが、僕にとっては嫌だった。
でも、理由はどうであれ、またこうして彼女と一緒にいられる。
困っている柚羽には悪かったが、僕にとっては至福の時間だった。
カラオケボックスに着くと、僕は柚羽を車に残して中に入った。
受付にいる若い男に鍵の落し物がなかったかを尋ねる。
男はその辺の店員を捕まえて聞いたり、落し物入れの箱を探したりとしたけれど、結局は出て来なかった。