三日月の雫
「永ちゃん、このカギ、誰の?」
スッと差し出されたカギ。
それは、柚羽のカギだった。
あの日ズボンに隠したカギは、ずっとかんながそばにいたため、別の場所に移すことも出来ずにそのままになっていた。
「あぁ、バイト先のヤツの。車の中に落としたみたいでさ」
「…『ユワ』っていうの?変わった名前ね」
「あー、そいつの彼女の名前だよ」
「へぇ」
普段なら、「うそ!」と突っかかってくるのに、話はそこで終わった。
それどころか、鼻歌をうたいながらかんなはコーヒーを淹れていた。
そんなかんなを見て、僕が学校とバイトを辞めることをずっと望んでいたんだろうと思った。
今までにない、かんなの機嫌の良さと穏やかな表情がすべてを語っていた。