ラビリンスの回廊
ターゲット
川に着くと、そこには誰もいなかった。
ルクトも、イシュトも。
温かいお湯の流れる川は、せせらぎが聞こえるだけで、大きな物音はなく。
そよそよと流れる川は、人が入っていたなどまるで嘘のようだった。
ただ、辺りには、たくさんの足跡と揉み合ったような跡。
濡れた岩や石が続いていた。
ヴァンは勢いよく後ろを振り返り、到着したエマの両肩を掴んだ。
「一体……一体、何があったのですか!!」
エメラルド色の瞳を目一杯開くエマはガクガクと震え、左右に大きく首を振った。
「わ、私、タオルを……体を拭くタオルを……
たくさんの男たちが……
甲冑を着けて……」
普段と違い、全く要領を得ない。
途切れ途切れだったが、ヴァンには単語の端々で通じた。
ブラウ兵が来たのだ。
イシュトを捕らえ、王国へ連れ戻すために。
そばにいたルクトは巻き添えをくらったのだ。
一時(いっとき)とはいえ、そばを離れた自分を恨んだ。
「男二人を連れて、そんなに遠くへは行っていないはずです。
──追いかけましょう」
そう言って、ヴァンは無意識に足先を向けた。
ブラウ王国のある方角へ。