ラビリンスの回廊
動転しているエマは、ヴァンの目指す方向へ体を向けた。
玲奈は一瞬おかしな顔をした。
どこか違和感を感じつつも、それが何かということにまでは到達出来なかったようで、そのまま後を追った。
追いかけながら、懐に入れていた剣にそっと触れる。
もし……という考えが頭をよぎる。
それがないに越したことはない。
だけど……
玲奈は、浮かんでくるその不安を打ち消すため、ぎゅっと剣の柄を握った。
ヒヤリとした感触が、心を落ち着かせるどころかざわざわと波を立てさせる。
ケンカなら負けない自信はあった。
だが、敵の命は断ってもいいというこの世界で。
もし剣を振るえば、相手は容赦しないだろう。
自分が敵と認識されたとき、
脅しではない『殺す』という感情をぶつけられたとき、
一体自分はどうすればいいのだろう。
ケンカで向けられるのは、殺気ではあっても、『確実に息の根を止める』殺気ではない──
そう気付いたら、足が動かなくなった。