ラビリンスの回廊
佇んだまま、玲奈は遠ざかっていく二人を見ていた。
先を行く二人は、藪に紛れてだんだん姿が見えにくくなっていく。
(逃げちゃえよ)
玲奈の心の中で、ザワリと囁くものがいる。
『ニエ』で国のために殺される運命?
あんたらの国なんて、知ったこっちゃねぇよ。
あんたらなんて、あたし、関係ねぇよ。
あたし、まだ死にたくねぇし。
これって、逃げるチャンスじゃねぇ……?
囁きに、耳を傾ける。
じり、と足を後退させる。
その時玲奈の脳裏に浮かんだのは。
『貸し、一つな』
というイシュトの言葉と、ぶつけられたタオルで真っ白になった視界。
ぎり、と歯をくいしばる。
「借りは返さなきゃな」
それが例え、いけすかないアイツでも。
礼を言い逃したあたしの、やるべきことだよな。
自分のチカラが助けになるかわからなくとも。
「行ってやろーじゃん」
その言葉を置き去りにするかのように、玲奈は力一杯走り出した。