ラビリンスの回廊
イシュトの苛立ちには気付かない様子で、男は再び「お目覚めでは?」と言った。
仕方ない、と諦め、イシュトは生返事をする。
男は手荒な非礼を詫び、王もイシュトの失踪をいかに心配しているか、と切々と訴えた。
「ブラウ…王……?」
男の言葉をルクトが聞き咎め、声をもらした。
それにより男はルクトに気付き、イシュトに彼のことを尋ねる。
「そう言えば、この者は一体……?」
「ああ……」
なんと説明すべきかしばらく思案したが、結局イシュトにいい答えは見付からなかった。
当の本人はと言えば、役回りを決めたときのように何か言えば良いものを、
答えるつもりはないらしく、ガタガタという容赦ない揺れに、小さく不満をこぼしている。
ヴァンがいれば上手く言いくるめてくれるだろうに、と溜め息をつく。
そして、共に行方知れずとなったはずのヴァンの捜索をしている様子がないことに気付く。
自分さえいれば、ヴァン一人居なくてもいいという考えなのかもしれないが……
「イシュト様?」
黙り込んでしまったイシュトに、訝しげな声をかけながら、男は胡散臭げにルクトを見た。