ラビリンスの回廊
襲ってくるはずの衝撃に備えたが、一瞬にして徒労に終わったことを知り、イシュトはフンと笑った。
「うち一人は、それなりに狂暴のようだな」
目の前には、フードを被った一人の女。
彼女の背には、兵から繰り出される剣を易々と受け止めるヴァンが見えた。
追い付いたヴァンが、イシュトとルクトの下にいた兵たちに斬りかかり、板は支えを失ったのだった。
どうやって抜け出したのか、それとも誰かの助けがあったのか、ルクトがイシュトの背についた板を支えている。
彼の肢体には、エマが抱えてきたらしいゆったりとした服が巻き付けられていたから、おそらくエマが手を貸したのだろう。
「るせっ!いつまでも捕まってんじゃねぇよ!!」
そう怒鳴って、剥き出しの剣をイシュトの目の前に繰り出す玲奈。
視線を向けることなくかざしたため、イシュトは小さく不満の声をあげた。
「危うく髪が切れるとこだ、この跳ねっ返りが……」
前髪に触れそうな剣はそのままに、それでもなんとか、手枷となっていた紐を断ち切る。
「……借りは返したからなっ」
その言葉に、イシュトはニヤリと笑った。