ラビリンスの回廊
「いささか過分なようなのが気に食わんがな」
そう言いつつ「剣を貸せ」と玲奈の剣をとる。
「あ……」
剣をとられ、思わず振り向いた玲奈の視界には──
「ふ、服を着ろーっっ!!」
「チッ、うるさい女だ」
イシュトは手近な兵を柄で殴り、甲冑の上に羽織っていた布を剥ぎ取ると、自らの身体に巻き付けた。
ヴァンとルクトには兵たちが襲いかかるも、イシュトに対峙するにはどこか躊躇いがあるようで、容易にそれが出来た。
盗賊の時には、ともすれば劣勢にもなったイシュトだが、兵も殺気のない剣。
剣の大きさは明らかに不利であるにも関わらず、次々に打ち負かしていく。
ここに来るまではヴァンに守られ、剣を使うことはなかった玲奈。
今はイシュトの背に庇われ、磨き込まれていた剣はみるみる血の色に染まるのがみえる。
イシュトは兵に対し、致命傷となるダメージは与えないようにしているようだが、向かってくる限りは立ち向かう。
兵たちも、おいそれとは引けない。
ぎゅ、と握り締めた玲奈の拳に気付いたのは、エマだった。