ラビリンスの回廊


何も言わずにそっと寄り添うエマに気付くことはなく、玲奈はその場に佇んでいた。


そうしている間にも、イシュトは兵たちを退け、ヴァンは剣で容赦なく捩じ伏せ、ルクトは確実に命をかき消していた。


イシュトは、エマから剣を受け取ったのか、玲奈の剣はおさめ、自分の剣を使っていた。


彼らは、動けないでいる玲奈を囲み込むようにして、兵たちと交戦している。


イシュトたちを助けに来たはずが、また守られているという現実に玲奈は唇を噛んだ。


自分のいた世界では、守られることなんてなかった。

いつだって戦ってきた。

だけど、今は戦うことが出来ない。

あの中に飛び込んでいく勇気が、ない……


なぜ彼らは戦う?

なぜ剣を持てる?扱える?

なぜ、人を殺せる──?


ズキン、と心臓に杭が打ち込まれるような感覚。


ルクトの言葉が蘇る。

『レイナちゃんを、守るため』


そうだ。
あたしは、助けに来たんだ。


「……っ」


玲奈は意識するが早いか、イシュトに向かって行った。


「貸せっ」


イシュトから剣を取り返す。


人は殺せない。
でも、あたしは戦える。

自分の身は、自分で守れる──!

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