ラビリンスの回廊
ルクトの言葉に首を傾げたエマが、昨夜の動揺を微塵も感じさせない落ち着きを携えて言った。
「もっと年季の入った小屋だったと記憶してます」
確かに、その山小屋はわりかし新しく見える。
だが形に見覚えはある、とエマが言ったが、それはルクトには聞こえなかったようだ。
気にしない性分ゆえともとれる。
「建て替えたのかもねー。だから印象が違うのかも。
ま、いいや。ちょっと寄ってみよっか」
近付いて行くと、小屋そのものはそのままに、ただペンキだけを塗り直したのだということが分かり、ルクトは納得した表情を見せた。
「何か携帯できる食糧があればいいな~」
そう言ってウキウキと扉に手をかけたルクトが、一瞬固まった。
後方の玲奈たちを振り返り、自らの唇に指をあてる。
──静かに。
仕草と表情からそう読み取った玲奈たちは、息を潜ませる。
ルクトを除く全員が少しずつ、小屋の窓から見えないであろう位置に、辺りに注意を払いながら後退りをし、さらにはルクトの挙動に邪魔にならないよう配慮する。
それを確認したルクトは、剣に手を添えながら、小屋の窓からそっと中の気配を窺った。