ラビリンスの回廊
「彼をご存知なのですか?」
そうヴァンがやんわりと話かけると、女の子は慌てたようにしながらも、首を縦にした。
「イシュト・ブラウ様ですよね……?」
小さいがはっきりとした問いかけに、イシュトは「なぜそう思った?」と逆に聞き返す。
「私、ブラウ王国民ですから……何度かお顔を拝見したときがあります」
相手の身元がわかったことで幾分かは安堵して警戒も和らいだようだが、王族であるということが理由なのか、緊張は全くほぐれていないようだ。
イシュトはといえば、頷いて認めるか、はたまた他人の空似で通すかを思案しているようだった。
「それに……ヴァンツ様も一緒なので……」
彼女のその言葉で思考に決着がついたらしく、イシュトはぞんざいに「そうか」と言った。
名は、という問いかけに、彼女は静かに「ルノ・ラウザです」とだけ口にする。
「ラウザ……あまり聞かない珍しい名ですね」
と言ったヴァンに、
「田舎の出ですから」
とルノは微かにはにかんだ。