ラビリンスの回廊
第一継承権という肩書きを持つイシュトを狙って寄ってくる女たちや、女を当ててくるものたちに慣らされたのだろう。
そして手を出せば相手は図にのり、手を出さねば不能だと罵られる。
そんな境遇で身につけた術なのかもしれない。
権威と責任のある位なら仕方ないことではあるだろうが。
それを知ってか、恥をかかされたと言うわけでもなく、ルノはなにげない素振りで問いかけた。
「それとも、なびかない女を待っているのですか?」
イシュトほどの端麗な容姿と肩書きがあれば、言い寄った女はイエスと言うだろう。
イシュトがもし王位継承権がなかったら、女はイエスと言わないかもしれない。
イシュトはそこまで女を信用出来なくなってしまったのだろうか。
「それなら私は間違えましたね」
そう言いながらもあまり気にしていないようなルノは、イシュトの返事を待つことなく、ゆっくりとベッドから立ち上がった。
「今夜は帰ります。お休みなさいませ」
そう言って、来たとき同様、スルリと隙間から廊下へと出て行った。
それを見つめていたイシュトだったが、何事もなかったかのようにヴァンを呼び寄せ再び眠りについた。