ラビリンスの回廊
仄暗き雲が覆う空のもとに広がるかのような、静かな海を想像させるヴァンの瞳。
そこに鋭い眼光は一瞬にして隠された。
村長はそれに気付いたのかどうなのか、その表情からは読みとれない。
押し黙った村長は、居心地悪そうにヴァンから視線を外した。
ヴァンも沈黙し、村長の言動に注目しているなか、ルノが恐る恐る出立の時間を切り出した。
「ヴァン様、そろそろ……」
あからさまではないが、確実に安堵した様子の村長に、ヴァンは残念がることもなくくすりと笑みをもらす。
そしてそのままエマに顔を向けた。
「もう出ないといけませんか?」
エマは部屋にかかっている室内時計に目をやり、ちょっと考えたあと、ヴァンに向かって首を傾げてみせた。
『意図による』
といいたいのだろう。
ヴァンが何をしたいのかはわからないが、大切な用事ならばギリギリの時間まで使っていいということのようだ。
ヴァンは優しく微笑むと、再び村長へと目を向けた。