ラビリンスの回廊
ヴァンの言葉に、ルノは大きく息を吐いた。
「流石はヴァンツ様」
言葉自体に変わりはないのに、声のトーンが変わっただけで雰囲気がガラリと変化した。
昨夜の妖艶さは見る影もないが、先程までの控えめな女性らしささえ消え失せてしまった印象を受ける。
町娘のようなルノは鳴りを潜め、僅かだが鋭く尖る雰囲気を醸し出していた。
それはあたかも光のあたる場所ではなく、影の部分に生息するかのような、そんな陰鬱としたものすら孕んでいる風だった。
「では単刀直入に申し上げますが、イシュト様。どうか城へお戻り下さい」
なのに出て来た言葉は何の含みもないような、直接的なもの。
イシュトは少し眉をひそめた。
「断る、と言ったら?」
探りを入れるためか、柄にもなく試すような台詞が放たれる。
ルノはちょっと虚をつかれたような顔をしたのち、笑った。
「あはは、そんなに身構えないで下さい。
城に戻りたくないということですか?
ならば理由を教えて下さいませ」