ラビリンスの回廊
いつもなら玲奈への説明にまわるルクトも、今回ばかりは困惑気味に苦笑するしかない。
目の前でこう堂々と王宮内情であろうことを言われたことに、ルクトは戸惑っていたのだ。
もちろん一般常識程度、もしくは王宮で知りうる程度ならばルクトも知ってはいた。
だが詳しい他国の内部事情まではわからないし、何より他国のことに首を挟むことは控えねばならない立場から、
知ってることを玲奈に伝えるのも憚られる。
確固たる情報は持っておらず、全て推測の域になってしまうこともあり、
臆測を踏まえるといえ言ってしまえば、王国の外交均衡が崩れる恐れもあるからだ。
しかし直接的表現はしないまでも、しもじもの者に『女狐』と揶揄されているのはイシュトの継母であるということはルクトにもわかっていた。
だからといってそれを玲奈に言っていいかどうかの判断をつけられない。
玲奈が首を傾げているのを知りながら、ルクトは何も言わずに口をつぐんでいた。