ラビリンスの回廊
次にイシュトの口から放たれた言葉は、充分ルクトにも説明が出来るものだった。
「集落まで、ご苦労な事だ」
イシュトは呆れたように、その声色に微かに嘲笑を織り交ぜている。
権威のある張った声は、そのまま村長に向けられてた。
「集落まで……?」
玲奈の訝しい顔に、ルクトは耳打ちする。
「この集落はイシュトくんたちを連れ戻すために作られた、とイシュトくんは考えてるみたいだね」
「は!? この集落、そんなことのために作ったっての!?」
思わず発された玲奈の声は大きく響き、一瞬にして彼女のもとへ視線が集まる。
さすがに決まり悪く、俯きかけた玲奈の目の端に、イシュトの頬が歪んだのが捉えられた。
「……緊迫感っての、知ってるか?」
返す言葉もなく、玲奈は黙り込む。
だって有り得ねぇだろ、と心の中で愚痴ったのが聞こえたのじゃないかという程のタイミングで、ルクトが「まあまあ」ととりなす。
「それにしたって、武力で来てたのにいきなしこんな手法を使われたら、レイナちゃんじゃなくてもそう思うっしょ」