ラビリンスの回廊


玲奈の体も意識も、既にルノのほうへと向かってしまっている。


その中でルクトは、はやる玲奈を引き止めた。


「待って、レイナちゃん。あのね、いまルノちゃんのところへ行っても」

「四の五の言わず、行くぞ!」


振り返りもしない玲奈の背に、ルクトは尚も言葉をかける。


手を伸ばせば充分に届く位置だが、腕をひいたりはしない。言葉だけだ。


「きいて、レイナちゃん落ち着い――」

「おい。そんな跳ねっ返りに、講釈なんぞ、するだけ無駄だ」


宥めるルクトを遮って、イシュトが玲奈の前へ回り込んだ。


玲奈の足が、僅かに竦む。


その隙をつき、エマが玲奈の脇へ。


イシュトの瞳は、玲奈だけを捉えていた。


「行ってお前に何が出来る」


「何って……」


絶句し固まった玲奈に、イシュトはなおも厳しい言葉を浴びせた。


「何も出来ないお前のそれは、偽善ですらない。悪意だ」


紫青色の虹彩は心なしか翳り、玲奈へ向かって放たれている言葉は、己に言い聞かせているかのようだ。


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