ラビリンスの回廊


後に残されたのは、膝を曲げたまま俯く男と、王が怒りをまくし立てた間中一言も口を開かなかった王妃だった。


王妃の目は、冷ややかに男を見下していたが、興味を失ったように、つと離れた。


王の去っていった扉のほうをチラリと見た王妃の口元が、うっすらともち上がる。


「よく吠える」


王妃の声に嘲笑を嗅ぎ取った男は、ニヤリと笑いながら顔を上げた。


「一国の王とは思えぬ器ですねぇ」

「それだけ焦っているということ」

「まぁわたしとしては、そのほうが良いですけれども。足元を掬いやすくなりますからねぇ」


愉快で堪らないといった風に、男はクククと笑った。


そして断りもなく立ち上がると、ずいっと王妃に迫った。


意味深な視線を王妃に送りながら、王が座っていた椅子をスルリと撫でる。


「全ては王妃様の思惑通り」


無礼な態度である筈なのに、王妃はなにも反応せずにジッと見据える。


視線には熱も冷たさもなく、ばつの悪さを感じたらしい男が、卑屈に口角を上げて戸惑い気味に笑みを見せた。


王妃はスッと立ち上がり、何も言わずに謁見の間を出て行く。


扉のパタンと閉まる音を背にした王妃の目には、侮蔑の色が強く残ったのを、男は知るよしもなかった。


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