ラビリンスの回廊


イシュトの目が大きく見開く。

「あれは……」


先程まで空を旋回していたものと同じ種類の鳥が、何かをくわえていた。


それは人に見えた。


何倍も、いや何十倍もありそうな体格のものを、質量も重力も無視して、飛んでいる。


皆が絶句して見上げる空を、悠然と翼はためかせていた。


嘴には頭部を挟み、体をだらりとぶら下げている。ぽとぽとと赤い雫が滴り落ちてきていることから、もしかしたら絶命しているのかもしれない。


逆光で影になり詳細は見えないが、様相からは性別や年齢さえも、判別しかねるかに思えた。


しかしヴァンは遠目がきくのか、イシュトたちよりはつぶさに観察出来たようで、静かに告げた。


「あれは、村長を名乗っていた男にほぼ間違いないと思います」


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