ラビリンスの回廊


いいえ、と静かに声が落ちる。


「確かに暁の乙女は『破壊を司るもの』ですが、イシュト王子と光の乙女の命を奪うということではありません。

乙女は、命を奪うという行為を、とても嫌うときいています」


その先を急く視線が、王妃に注がれる。


衣擦れの音さえ高く聞こえそうなほどに、部屋は静まり返っていた。


先ほどからの王妃と男の会話に、随所随所で冷静を自らに言いきかせているルノだが、一段とと鼓動を諫める。


王妃はなかなか続きを言おうとしない。


もしや気付かれたか、それとも何かしらの違和感を嗅ぎ取られたかと、ルノが焦りを覚えたとき。


漸く王妃が口を開いた。


「破壊してもらうのは――『紅玉』です」


< 233 / 263 >

この作品をシェア

pagetop