ラビリンスの回廊
無意識のうちに息を吐く。
顔を上げた玲奈の目が捉えたのは、さまざまな建物であった。
シェル城下の街と、ルノが画策して作った集落しか見たことのない玲奈だが、集落にあった民家よりもだいぶ数が多い。しかしシェルの街ほどではない。
階数のあるような建物も殆どなく、こじんまりとした印象を受けた。
「ツィーバだ」
呟いたルクトの言葉は、記憶の奥に微かに引っかかる。
「ツィーバ……」
「ひとまず目指していた街だよ。ここまで来れば、近い」
紅玉が、と改めて明言するのは避けたルクトだが、皆の頭の中には、言われずとも思い浮かんでいた。
もちろん玲奈の頭の中にも。
「いよいよだね、レイナちゃん」
前を見据える玲奈を見つめながら、ルクトが静かに口角を上げる。
ほんの一瞬だけ、悲しそうな寂しそうな表情を見せて、微かに何かを言いかけた。
しかしそれが音になることはなく、そのうち何ごともなかったかのように、ルクトは違う言葉を口にした。
「行こう」
前を向いたルクトの表情は、誰にも見えなかった。