ラビリンスの回廊
「おい……冗談やめろよ」
玲奈が蒼白な顔をするなか、剣を向けられている当事者のヴァンは、平静を保っていた。
「正確には交際を申し込むわけではありませんが」
「でもそっちには前科のあるイシュトくんがいるし」
ルクトとヴァンの視線がイシュトに向き、ヴァンが納得の頷きをみせる。
「なるほど」
黙ってヴァンの動向を見ていたイシュトだが、自分に向けられた視線と言葉に、不満をあらわにした。
緊迫した状態であるにも関わらず、ヴァンは思わずといった具合で、くすくすと笑いをもらす。
「さすがに心配ご無用というわけにはいかないですか。ですが……ここは我々も譲れません」
ぎり、と金属のこすれる音がする。
膠着していた剣同士のせめぎ合いだが、ヴァンがなぎはらう所作をしたことで一気に解かれた。
「ルサロアはどうしても必要です。あなたがたの国――シェル王国と、我々の王国を守るために」