ラビリンスの回廊


ルクトが意を決して、口を開きかけたその時。


「待て!

あれは……なんだ……?」


制止に続き、困惑をまとったイシュトの声が、皆の耳に届いた。


思わず、といった拍子で皆がイシュトを見、更に彼の視線の方向へと目をやる。


つい先程まで、なんの変哲もなさげに見えたツィーバの街の上空。


晴れ渡った青空とまではいかないまでも、薄い雲はいつ消えてもおかしくない程に、向こう側の光を含んでいたのだが。


その一部分が、真っ赤に染まっていた。


「あれは……!」


エマが血相を変え、言葉を失う。


彼女の取り乱しように、誰一人その場から動けないでいた。


そうしているうちに、みるみる雲が途切れ、赤い光が稲妻のように地上へ向かって放たれる。


光が落ちてきたのは、ルクトたちが立つ場所よりも、ほんの僅かにツィーバよりであった。


音もなく衝撃もなく地に到達し、瞬時に霧散した光の中央には、何かが残っていた。


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