ラビリンスの回廊
ゆらり、と動いたソレは、ひとがうずくまっていたのだった。
それは球体ではなく、人のかたちをしているのが、いまなら誰の目から見てもわかった。
エマが、言った。
「あれは、紅玉ではなく――暁の乙女」
「暁の、乙女?」
聞き返すイシュト。
彼に説明するというより、ひとりごとのようにエマが呟く。
「我らシェル王国に伝わる『光の乙女』のように、ファイ王国にも『暁の乙女』が……」
「ファイ王国だと? もしや、女狐が……!」
「そうか、ブラウ王国の王妃はファイ王国から嫁がれたんだっけ」
合点がいったとルクトが頷く。
「見えてきたね、線が」
そう言いながら、唖然と佇む玲奈を見る。
「どうやらレイナちゃんは、あのひとを、知ってるみたいだけど」
ルクトの声が聞こえたのか、玲奈が呟いた。
「あいつはハルミ……『朱龍』のハルミだ」
皆の視線をうけながら、ハルミは『朱龍』のトップと同じく真っ赤な色に染めた髪をかきあげ、辺りを見回す。
そして玲奈の顔で止まると、舌打ちをした。