ラビリンスの回廊
「それは……!」
玲奈より先に、イシュトが反応を見せる。
ハルミはイシュトをちらりと目の端で見やったが、すぐに玲奈へ視線を戻した。
「これ、欲しい?」
玲奈の目が自分の手元に注がれたのを見てとり、満足げにニンマリと笑う。
玲奈は躊躇った。
欲しいかと問われれば勿論、それを目指して旅をしてきたくらいだから、喉から手が出るくらい欲しい。
が、ハルミがこの世界に来、更には紅玉を持って眼前に現れたことを、警戒してもいた。
警戒というにはあまりに漠然としていて、『嫌な予感がする』といったほうが近いけれども。
「どうしよっかなぁ?」
目を細め、蛇のような執念深さを覗かせたハルミに、玲奈の躊躇いは迷いと見えていた。
自分に頭を下げることをしたくないが故に、欲しいと言い出せないのだろう、と。
嫌々ながらも頭を下げるか、この紅いガラス玉を必要ないと突っぱねるか。
――さあ、どっち。玲奈。……まあどちらにしても、あんたの手には渡さないけどね。
ハルミの心の中の声は誰にも聞こえることはなかったが、彼女がどうみても友好的とは思えない態度をとっている以上、最悪の想定をし始めていた。