ラビリンスの回廊
「きいたんだけどさぁ、あんたら玲奈と旅? してたらしいじゃん?
その女がイケメン嫌いって、あんたら知ってた?」
ハルミが、イシュトとヴァンを交互に見て、意味深に笑う。
「顔のいい男が嫌いなんだって。
いい男が触れると気絶!
ケッサクだよねー!」
黙り込んでいる玲奈の前で、ひとりヘラヘラと軽い調子で話を垂れ流す。
気絶、という言葉を発したときには、わざと白目を剥き、舌を出して見せさえした。
玲奈は挑発に乗らず、ただ静かにハルミを見る。
「澄ました顔してるけどさぁ玲奈。あんたがなんでイケメン嫌ってたか、あたし知ってるよ」
それでも黙りこくっている玲奈に対し、ハルミはとある単語を口に出した。
「人形」
ぴく、と肩を震わせた玲奈に、ハルミは自信を得たのか、目を見開き、口角を上げた。
「顔のきれいな男が、人形に見えるからでしょ?
マネキン人形みたいに。
そして恐ろしくなるんだ。
血の通わない人形は、血を欲しがってるんじゃないかって……赤くて温かい、人間の血をね!」
「……やめろ」
低く、玲奈が声を出す。
「そうあんたの血だよ……あんたの血が欲しいのさ……
あんたの後ろにいるそのイケメンたちは大丈夫かい?
本当は人形なんじゃないの?
本当は人形で、あんたの血が欲しくて……」
「やめろ!」