ラビリンスの回廊


玲奈が声を荒げるより少しだけ早く、イシュトが動いていた。


彼の手に握られた剣の刃が、一瞬にして空気を切り裂き、切っ先がハルミの喉元に向けられている。


ひっと息をのむハルミ。


彼女の中では、刃物は脅しの道具である。


目の前でこれみよがしにチラつかせ、服従させたりするためのもので。


こんなにすぐ近くに、それも自分の体に押し当てられ目で捉えられない刃物など、知らない。


更に、紫青の瞳が、刃物以上に斬れそうな視線で見据えてくる。


何故自分はこんな状態に陥っているのか。
なんでだ。なんでだ。


恐慌状態に陥ったハルミに、イシュトは言った。


「長々と喋りすぎたな。――さぁ紅玉を渡して貰おうか」


彼の声に応えるように、ハルミはゆっくりと紅玉を持つ手をあげた。


そして。


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