ラビリンスの回廊
「なぁ、これって本物……?」
紅玉が割れるものだなんて、玲奈には、俄かに信じ難いことだった。
願いをきき届けては、いつの間にかもとの場所へ戻るという不思議な存在である紅玉が、たかだか地面に叩きつけられたくらいで壊れてしまうなんて。
エマが、震えたように小さく頷く。
本物だ、と。
ルサロアであるエマが言うなら、本物なのだろう。
「じゃあ、これって、どうなんの……?」
シェル王国は、ブラウ王国はどうなる。
――そして。
「あたし、帰れないのか……?」
エマに確かめたいのに、顔を上げることが出来ない。エマの顔――いいや、誰の顔も見る勇気がない。
自分がいた世界に、居心地の良い自分の居場所があったわけじゃない。
だけども、なんだかひどく懐かしくて。
鬱陶しいと思っていた親も、先公も、いつも補導だの何だのうるさかった警察も。
面倒くさいクラスメイトも、朱龍のやつらも。
「朱龍……? おい、ハルミ!」
「なんだよ」
「あんた、どうやって元の世界に帰る気?」