ラビリンスの回廊


ハルミは、玲奈の顔に一瞥をくれると、鼻で笑った。


「教えると思う?」


「あるんだな? 帰る方法が」


ハルミへというより、周りにいるものたち全員へ向けた玲奈の声は、低く掠れていた。


エマと連れ立って出発することを決めた、あのとき。
確かに、紅玉以外に方法が『ない』とは、エマはひとことも言ってなかった。


――チッ、エマに騙された。


心中舌打ちした玲奈だが、エマの立場からすれば、それは仕方のないことだったのだろうと思う。


許すかどうかは別だが。


――でも。


エマの顔が青ざめているのを見て、玲奈はいたたまれない気持ちになった。


ハルミが紅玉を壊したことは、紅玉以外に帰る手段があるというのであれば、玲奈にとっては死活問題という程のことではない。


しかし、この世界の、シェル王国――ルサロアのエマにとっては、重大なもので。


ルクトにも、イシュトにも、ヴァンにも、ブラウ王国にも。


そこに住む人々にも。


この紅玉は、とても大切なものだったのだ。


――なのに。


ぐっと唇をかむ玲奈に、ハルミがぴくんと眉を跳ね上げた。


玲奈が何か呟いたように感じたからだ。


「なに。はっきり言えば?」


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