ラビリンスの回廊
ルクトは、意外にあっさりと「ではお言葉に甘えて」とコロリと態度を変えた。
「なぁ、名前教えてくれん?
『姫』や『姫様』なんて柄じゃないっしょ?」
「……変わりすぎだろ」
態度まで変えていいと言ったつもりねーよ、と玲奈は噛みついたが、ルクトは手をヒラヒラさせて言った。
「まぁ、かたいことゆうなって」
黙って聞いていたエマに、ルクトは「なぁ?」と同意を求める。
珍しく、エマが無表情を崩し、冷ややかな視線をルクトに向けた。
「無礼にも程があります」
「まぁまぁ、そう固いこと言わずに」とルクトが笑う。
ルクトは「で、結局名前は?」と言い、エマもそれには頷いたので、玲奈は今更ながら自己紹介をする。
とはいえ、ただ名前を言っただけで、他は一切言わなかったが。
それは秘密主義などではなく、ただ単に訊かれなかったからだった。
「ふうん、玲奈ちゃんかぁ。
名前は可愛らしいよね」
「……どういう意味?」
返答次第では黙っていないぞというオーラを放ちながら、ギロリと睨み付けた玲奈に、ルクトは大袈裟に肩を竦めて震えてみせた。
「おぉこわ」