ラビリンスの回廊


「……俺様に剣を向けた度胸は褒めてやる。
だが……甘い」


ぐっと後ろにのけぞったかと思うと、鈍くぶつかる音がして、カシャン、と剣が地面に落ちた。


「っつ!」


剣を持っていた手の甲を抑えたルクトと、男の宙に浮いた足で、玲奈はようやく何があったのか悟る。


男の足がルクトの手を蹴り、思わず開いた手から剣が滑り落ちたらしい。


「殺気の籠らない剣など、いくら向けても無駄だ。
さあ、わかったらさっさと吐……」


ぐい、と玲奈の腕を掴んだ瞬間。


「お、おとこー!」


ぐはぁっ!と男の悶える声を最後に、玲奈はふつりと意識を失った。


「れ、玲奈さま!?」

「イ、イシュト様!!」


玲奈に駆け寄るエマと、イシュトと呼ばれた男に駆け寄る銀髪のヴァンの行動はほぼ同時で。


ルクトは手を擦りながら、剣を拾って玲奈のそばへ向かった。


玲奈がただ気を失っているだけらしいとわかったエマは、表情を崩さぬままホッと息をついた。


少し離れた場所では、ヴァンが心配そうにイシュトの顔を覗き込んでいた。


ヴァンに気付かれないうちにその場を離れようと、ルクトがエマに伝えるとエマはこくりと頷いた。

< 34 / 263 >

この作品をシェア

pagetop