ラビリンスの回廊
「イシュト様がそう仰るなら」
あっさり引き下がったヴァンにイシュトは「様はいらない」と低く強い口調で言った。
「俺様に恥をかかせる気か?
演技も出来ない従者を持つと?」
ヴァンは少し困った顔をしたが、仕方ないとばかりに息を吐き、小さく頷いて了承の意を示した。
「では、エマ。
森を突き抜けましょう」
その言葉を聞いて、ルクトは小振りの剣を出した。
ほい、と玲奈に投げると、彼女は反射的にそれを受け取った。
柄にも鞘にも装飾は全くなく、煤けた真鍮の色をしていて、長さは20センチ程の洋剣だった。
カチリと鞘を抜けば、玲奈の黒い瞳が映されるほどに磨きこまれている。
「本物だよ。
何かあったらレイナちゃんはもちろん俺らで守るけど、念のため、ね」
軽くウィンクしたルクトから、身震いして目を離した玲奈。
ルクトは可笑しそうにその様子を見て、「じゃ、行こうか」と言った。