ラビリンスの回廊
森へ足を踏み入れると、そこは薄暗い場所だった。
天を覆い隠す木々は視界に充分な光を与えず、両脇から伸びている枝が行く手を阻む。
腰まである草をかき分け、歩を進めることもままならない。
先頭を行くルクトが、あまりに邪魔な枝を折っていくも、肌には無数のかすり傷が出来ていた。
無心に歩いていた一行だったが、玲奈が酸素を求めてはぁはぁと口で呼吸をしだした頃、ルクトが急に立ち止まった。
訝しげにルクトを見る玲奈だったが、他の者たちの緊迫した様子に、そっと辺りを伺った。
そうしてようやっと、ザザザザァ…と草が分けられる音に気が付いた。
荒げていた息を飲み込んだ玲奈に、後ろを歩いていたヴァンが庇うように左腕を広げた。
思わず出かかった拳がヴァンに向かう前に、耳障りなダミ声が聞こえた。
「動くんじゃねぇ」
ハッ、と玲奈が声のした方に目をやると、にやにやと笑っている髭面の男がこちらを見ていた。
薄汚れた服に、下卑た笑い。
そんな格好をした輩が数十人、玲奈たちを取り囲んでいた。