ラビリンスの回廊
「う~ん、この服はお気に入りだったのになぁ」
前へ歩き出す前に、ぶつぶつ言いながら着替えたルクトは、軽い口調でヴァンに言った。
「そーそー。あんたは?イシュトくんよりも使える?」
「……少なくとも敵と見なした輩に容赦することはありません」
「そ。なら次から宜しくー」
口惜しそうに唇を噛むイシュトに構うことなく、ヴァンに向かってにかっと笑い、手をひらひらさせたルクト。
玲奈は混乱しながらも、ただ黙って聞いていることしか出来ないかに思えた。
ここは、あたしがいた世界じゃない──
だから、この世界のルールが『敵は殺して良い』なら。
それに従う──?
自分がいた世界でも、何かしらのルールが存在した。
法律だとか、校則だとかそんなもんが、秩序を保つために存在してると大人は口を揃えて言ってた。
守らないヤツは、鉄格子の向こうに送られたり、学校から追い出されたり、そんな制裁を受けたけど。
人を殺してはならないという根本的なルールを覆されるこの世界で。
自らを『贄』だと言われ、死ぬのが運命(さだめ)なんて言われて。
「……黙ってなんか、いられっかよ…っ」