ラビリンスの回廊


「あたし……たちを……」


元はと言えば、玲奈が『紅玉』をとりにいく旅で、ルクトは護衛としてついてきている。


護衛とは玲奈を守る立場であり、時には盾となるべき存在なのだ。


過剰な防衛をしようとも、玲奈を守ることが最優先。


「でも……それでも!
あたしは人を殺してまで守られる存在?
だってあたしは…っ!」


『贄』という言葉は出なかった。

イシュトたちに聞かれたらとかそんなことよりも、玲奈の脳裡に浮かんだのは、『贄』としての生への恐怖だった。


決められた時、場所、方法でしか死ねない『贄』だと、そのために生かされているのだと、

そのために守られているのだと……わかってしまったから。


万が一があってはならない。

万が一、『贄』が儀式以外で死ぬことがあってはならない──


そう、突きつけられた気がして、玲奈はギッと奥歯を噛み締めた。


「殺す必要、なかっただろ─だったか?」

ふいにイシュトに話しかけられ、玲奈は身構えた。

「……命までとらなくてもいいだろ、と?」


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