ラビリンスの回廊
ルクトに背を向け、ヴァンの後ろをついて歩いていたイシュトだったが、ヴァンがどこかを目指して歩いていることに気付き、眉をひそめた。
「どこに向かっている?」
そう言ってから、どこかに向かっているのではなく、何かの跡を追っているようだと思った。
「……何を隠しているんだ?」
やはりさっきの表情は何かあったのだ、とイシュトは見当をつけ、ヴァンに尋ねる。
ヴァンは、足元を指差しながら言った。
「痕跡が。まだ新しいです。
おそらく、数日前のものと思われます」
ヴァンの言葉に、イシュトはハッとする。
「軍……か?」
イシュトの、呟きのような問い掛けに、ヴァンはかすかに振り返り、小さく頷いた。
「ええ。
あの方たちの前では言えませんでした。
この街が廃れているのは、ブラウ兵の仕業です。
人々は、多分奴隷として……」
ギリ、とイシュトが奥歯を噛み締めた音がした。
「父上……」
その言葉は聞こえなかったかのように、ヴァンは何も言わずに足元から視線を上げた。