ラビリンスの回廊


「ともあれ、もうここは回ったあと。
逆を返せば当面は安全ということでもあります。
それに、人々がいないのはこちらにとってみれば好都合ですし」


イシュトは、苦々しい顔でヴァンを見た。


「そういう言い方はよせ。
奴隷として連れ去られたかもしれないのに……」


「イシュト様。
この際ハッキリと申し上げます。
ブラウ王国には奴隷が必要なのです。

実り豊かな他国と違い、ブラウ王国は痩せ細った土地。
耕すため、水路のため、建築のため……枚挙に暇ありません。

それらのための賃金すら払えない国家なのです。

だから王は今の王妃と……」


「金のために結婚した。
だが、王妃の国は、我が王国への支援はしなかった。

金食い虫がいなくなってせいせいした、くらいにしか思ってないんだろう。

残ったのは、王国の貧困さに嫌気のさした王妃と、王妃にうつつを抜かす骨抜きにされた王だけ……」


溜め息をついたイシュトは、軽く頭を振った。


「金も物資もないのに戦を仕掛ける、なんて、考えることが浅はか過ぎる」

< 69 / 263 >

この作品をシェア

pagetop