ラビリンスの回廊
とはいえ、踏み荒らされた田畑には何もなく。
イシュトは、なんとなしに目に止まった野生の果実を一つ、乱暴にもいだ。
パチンとしなった枝に頬を引っ掻けられ、しかめ顔をしながら果実の匂いを嗅ぐ。
その所作に、ヴァンは微笑んだ。
「ランドクルの実ですね。
熟しているようですし、いくつかもいでいきましょう」
結局何の果実かわからないような不可思議な顔をしたイシュトに構うことなく、ヴァンは橙色のたわわな実を手際良くもいでいく。
「……詳しいな」
なんだか少し悔しそうなイシュトに、ヴァンはさらに口元を緩めた。
「そうですか?普通ですよ」
ますます面白くなさそうにしているのを見て、吹き出しそうになるのをこらえながら周りに目を配る。
そして、ランドクルの実以外にもいくつか食べ物を見つけた彼は、それらを手に入れると、ふてくされたままのイシュトに声を掛けた。
「さぁ、戻りましょうか」
「俺はまだ何も採ってない」
声のトーンは抑えられているが、内心躍起になっているのが良くわかる。
今からでも他へ行こうとしているイシュトを、駄々をこねる子をあやすように、やんわりとヴァンは遮った。