ラビリンスの回廊


「な、なんだよっ」


あまりにまじまじと見つめられ、玲奈はイシュトに向かってそう言った。


「平気なのか」


そのイシュトの言葉に、ベンス兄妹の間に緊張が走った。


エマが、押さえた声でゆっくりと言葉を紡ぐ。


「何が、ですか?」


玲奈からではなくエマから問い掛けられたことに一瞬戸惑ったイシュトだったが、玲奈の手元にある実を見ながら言った。


「いや、俺様が触れてやったときには卒倒したくせに……」

ルクトの噛みあとのついた実を、玲奈が平然と食べたことが納得出来ないらしい。


「あ……」
玲奈は思わずルクトを見た。


ルクトは「ん?」というように首を軽く傾げる。


「えっと……」
珍しく歯切れのわるい玲奈。


それもそのはず。

イケメンのみを男と認識する玲奈には、ルクトは範囲外で。

男でないから、そのくらいなら気にならない。

勿論、直接キスなんてのは論外だが、いわゆるまあまあ仲の良い兄妹の延長みたいなもので。


だが当人を目の前にして『ルクトはイケメンじゃないから』と言えるはずもなく。


「え、え~と……い、いとこだしな!
信頼ってやつだ」

嘘を言わざるを得なかった。

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